久々にサークルの友達と話していたら しばらく会っていないS先輩の話になった
S先輩の手はものすご〜く小さかった 男の人とは思えない、もみじのような手だった じゃんけんでパーを出すと笑われると言っていた 中学一年生の時、何年生と聞かれて 「一年生です」と答えたら うわ〜大きいねえと言われて 「?」と思ったら小学一年生だと思われてた!とか 誰かが、ご飯をおごってもらおうと 遊びに行ったらお金がないと言うので反対におごってしまった!とか アタッシュケースを持っているので何が入っているんですか?と聞くと 中にはぎっしりとまんが本が入っていた!とか 三軒茶屋の映画館の話は可笑しかった 隣に座った男が内腿を触ってくる 小柄でふわふわロングヘアだったS先輩はきっと自分を女の人と間違えていると 思って、その痴漢に俺は男だよ、と教えるべく 自分の顔を指差しながらこう言った 「おぉ!おぉ!」 安心して前を向いて映画を見ていたら また手が伸びてくる で、いきなり気が付いたらしい 「男と知って手を伸ばしている!」って事に、とか どんどん盛り上がって とうとう、電話をしてみようと言うことになった 前回も旅館を営んでいた実家に電話したのだった でも、S先輩はいなくて、しかも夜遅かったので ちょっと警戒されてしまった 今回はまだ早い時間 思い切って電話した S先輩いらっしゃいますか? 大学の後輩なんですが と 思いもかけない言葉が戻ってきた 「実は、30歳の頃、病気で亡くなりました」と もう20年も前に みんなから愛されていた先輩は永遠に私達の前から 姿を消していたのだった 何回も何回もS先輩の話をしていた どうしているんだろうと思っていた でも、なぜかだれも 会ったことがなかった 小さなもみじのような、でも器用そうなその手で しっかりと仕事をして、幸せな人生を歩んでいると思っていた きれいな長野の空の下にいると思っていた 私達にとって、一番の先輩は いつのまにか はるか年下のまま、時が止まっていたのだった もう一度じゃんけんしたかった S先輩忘れません
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